
ネットワークアナライザの内部構造(前編)~3つの基本要素~
高周波測定における基本測定器の一つであるベクトルネットワークアナライザ(以下、VNA)ですが、測定した結果はSパラメータという指標を用いて、反射特性、伝送特性を表現します。
本コラムではVNAの内部構造について紐解いていきたいと思います。
まず、2ポートVNAの基本構造を図1に示します。
図1 VNAの基本構造
図1で、点線で囲われている部分がVNAの内部、図の右側にあるDUT(Device Under Test:被測定物)と接続している上側の線がVNAのPort1、下側の線がVNAのPort2です。
VNAの外観や表示画面は、スペクトラムアナライザと似ているので何が違うのですか?と聞かれることがあります。
VNAとスペクトラムアナライザの大きな違いの一つが、図1の左側にある信号源です。
スペクトラムアナライザは、外部から入力された信号の絶対量を測定するもので、自ら信号を出す必要はないため、通常のスペクトラムアナライザに信号源はありません。
それに対しVNAは外部からの入力信号と比較するために、基準信号として自分の信号源が必要になります。
自ら出力する信号をDUTに入力し、DUTを通過した信号や、DUTから反射してきた信号を、受信器で測定する、というのがVNAの基本構造です。
スペクトラムアナライザとの違いについてはこちらもご参考ください。
また、VNA内部には4つの受信器があり、通過した信号や反射した信号を測定することで、4つのSパラメータが測定可能になります。
この受信器は、サンプラという呼び方もします。
Sパラメータについての復習はこちら
もう一つ重要な構成要素として、4つのカプラ(方向性結合器)があります。
カプラも受信器に対して一つずつ接続されています。
VNAは、このように信号源、受信器、カプラという要素から構成されています。
以降で細かく見ていきましょう。
図2で一つ目の構成要素である、信号源の説明をします。

VNAでは横軸に周波数を表示しています。
これは、横軸上に、周波数毎に外部から入力される信号と、内部信号源の比較をした結果を表示するということです。
そのため、信号源は、ある周波数から別な周波数に掃引する機能が必要になります。
また、信号源には出力レベル可変機能も必要になります。
DUTがケーブルやコネクタのようなパッシブデバイスの場合、あまり気にする必要はないのですが、アンプのような非線形特性を持つアクティブデバイスの場合、入力信号が大きすぎると、アンプの出力が飽和してしまい、正確な測定ができないことがあります。
そのため、測定するDUTの特性に応じて、内部信号源の出力、すなわちDUTの入力を可変する必要があります。
図3で二つ目の構成要素である、 カプラ(方向性結合器、Directional Coupler)の説明をします。
図3 カプラ
これは、信号の進む方向に応じて、信号を分離したり、通過させたりするためのデバイスです。
図3のカプラaとカプラbを貫いている黒い線は、伝送路です。
ここで右側に向かっている赤色の信号と左側に向かっている黄色の信号がカプラaとカプラbを通過するものとします。
カプラaは、右側に進む赤色の信号から受信器a1へ一定の比率で信号を分離し、黄色の信号は通過させます。
カプラbは、左側に進む黄色の信号から受信機b1へ一定の比率で信号を分離し、赤色の信号は通過させます。
このように、カプラは信号に対する方向によって、信号を分離したり、通過させたりする働きをします。
このカプラを一つの伝送線路上に向きを変えて二つ取り付けることで、信号源からDUTに向かう信号と、DUTから信号源側に戻ってくる信号を同時に測定できるようになり、二つの信号を比較すれば、その比率がわかる、という仕組みになります。
図4で三つ目の構成要素である、受信器の説明をします。
図4 受信器
受信器は、カプラで分離した信号を測定します。
図4では、カプラから分離された信号をRF(Radio Frequency)信号として記載しています。
これをLO信号源(Local Oscillator)とミキシングして、IF(Intermediate Frequency)信号という低い周波数の信号にダウンコンバートし、その後、ノイズ除去のためにIFフィルタを通過させた後、DSP(Digital Signal Processor)で、デジタル信号処理を行います。
この系全体を受信器、またはサンプラといいます。
以上、信号源、カプラ、受信器の3つがVNAを構成する大きな基本要素です。
後編では、この基本要素に信号の流れを加え、順方向の処理(S11、S21)、図2 逆方向の処理(S22、S12)をそれぞれ説明します。
※本記載内容は2022年3月1日現在のものです。
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