面倒な誤差の計算も簡単に。ネットアナ、データシートの見方
(ネットワークアナライザの伝送/反射特性の測定誤差 その3)
→ 関連記事:「校正しても誤差は残るの?」(その1)
「誤差要因の考え方と計算の仕方」(その2)
「校正を行った後でも測定における誤差は少なからず存在する!」 とコラムその1で、
その2ではネットワークアナライザ(以下、ネットアナ)での校正の定義、校正により改善できる誤差要因
(システムマチック誤差)、それを元に伝送及び反射特性の誤差計算に関して説明を行いました。
ご理解いただけましたでしょうか?
「理解は出来たが、毎回校正後に誤差の範囲を計算するの?(面倒だな…)」
そこで今回のコラムその3では、別の方法をご紹介します。
データシートに誤差(不確かさ、不確実性)が記載されているのをご存知ですか?
1. ネットアナの測定誤差の記述に関して
コラムその2でご紹介した誤差要因の影響を理解した上でネットアナのデータシートを詳細に見ていくと、
実はこの誤差範囲が表になって記載されていることが分かります。
ほとんどの方が見逃しがちですが、一度確認してみると良く理解できます。
下の表が代表的なアンリツ製ネットアナのデータシートの抜粋です。
校正の精度(どの程度誤差が低減できているか)は、どのモデルのネットアナ(VNA)で、
どの校正キットを使用したかで決まります。(データシートには必ず記載されています。)
(画像はクリックして拡大可能)
表の見方は伝送/反射特性ともに同じです。測定したい周波数範囲で、どの程度の特性の被測定物を測定するかを、
表に記載してある曲線をたどり求めます。求まった値を±xとして不確実性として表します。
これが測定における誤差の範囲となります。
2. データシートから分かる誤差の確認方法
例1)伝送特性の誤差範囲:
測定周波数範囲:10MHz~20GHz(今回は8GHzにて判定)
被測定物の特性:① -3dB(伝送損失)、および ② -60dB
(画像はクリックして拡大可能)
例2)反射特性の誤差範囲:
測定周波数範囲:10MHz~20GHz(今回は8GHzにて判定)
被測定物の特性:③ 10dB(反射損失)、および ④ 30dB
(画像はクリックして拡大可能)
★裏ワザ紹介
3. 反射特性の誤差範囲の簡単判定方法
ネットアナではベクトル量を測定しています。
そのため被測定物の実際の特性と測定器の誤差ベクトルは以下のような関係になります。
この裏ワザは上図のRef(被測定物の実際の特性)に対する±の最大誤差を簡単に判断する、非常に簡単で便利な方法です。
この裏ワザを使用するには、以下RFメジャメントチャートが必要になります。
これは弊社の「精密RF マイクロ波コンポーネントカタログ」の表紙の裏に記載されています。
表の赤枠の部分はVSWR/反射係数/反射損失の変換表となっています。
計算で使用する反射係数への置換えにも使用できます。使用するのは緑枠の部分です。
→ コンポーネントカタログのダウンロードはこちらから(直接PDFが開きます)
(画像はクリックして拡大可能)
前図の緑枠の部分を以下に拡大表示し各項目に関して簡単に説明します。
①:xdB Below Referenceは方向性の値と被測定物の実際の特性の差分
②:Ref+X, Ref-Xは誤差の+側最大と‐側最大
③:Ref±Xは②の値の合計値
(画像はクリックして拡大可能)
表の使用方法:
1. 校正後の『方向性』の値を使用しているVNAデータシートより確認
2. 被測定物の反射損失を確認
3. 上記の1と2の差を計算
実例:方向性:35dB
反射損失:20dB
差:15dB
手順
A:上記実例の差分15dBを①の行から探します。(緑枠)
B: 15dBの右側の値を読み取り誤差範囲を判定します。(青枠)
C: Ref+X dBは測定値の+側の誤差範囲(この場合1.4216dB)
D: Ref-X dBは測定値の-側の誤差範囲(この場合1.7007dB)
E: Ref± X dBは上記CとDの総和(ピーク to ピーク)
その他の使い方
*反射損失20dBを±1dB程度の誤差で測定したい場合の測定器の方向性を求める。
まず、Ref+X及びRef-Xの値②が1dB以内の列を特定する。(茶枠)
次に、XdB Below Ref①の値を確認すると19dBです。(赤枠)
故に方向性39dB以上(20+19)であれば希望する誤差範囲で測定可能となります。
※本記載内容は2018年6月1日現在のものです。
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