
スプリアス領域の「近傍帯域」とは? …の続き
なぜスプリアス領域の中で帯域外領域にいちばん近い「近傍帯域」は、
参照帯域幅そのままのRBW=100kHz等で測定することが難しいのでしょうか?
スペクトラムアナライザのRBWはバンドパスフィルタであり、波形表示の1ポイント毎の値は、
このRBWフィルタ帯域内に含まれる電力の合計値になります。
ここで注意する点は、RBWのフィルタ形状は理想的な四角形ではなく
すそ野の広がりをもつ山なりの形状になっている、ということです。
つまりRBW=100kHzの場合は、周波数幅100kHz(中心±50kHz)の四角形ではなく、
もっと遠い範囲まで広がる特性になっています。
図3は無変調正弦波をスペクトラムアナライザに入力し、中心周波数を変えたときの観測レベルを示しています。
搬送波の中心周波数より±50kHz以上離れても、レベルが急激に落ちることはなく、緩やかに落ちています。
この特性が近傍帯域においてRBW=100kHz等で測定することを難しくしています。
図3:分解能帯域幅(RBW=100kHz) の特性
(例:搬送波(fc)が無変調かつ0dBm入力時)
(画像はクリックして拡大可能)
図4は、送信機をスプリアス領域の測定条件である、運用(変調)状態とし、
上側の近傍帯域(fc+62.5kHz~fc+1MHz)を、RBW=3kHzと100kHzで測定したときの実際の波形です。
RBW=100kHzでは搬送波(変調波)の影響によりfc+62.5kHz付近のレベルが非常に大きくなり、
判定値を満足できない測定値になっていることがわかります。
RBW=3kHzではフィルタの広がりがRBW=100kHzに比べて狭いため、 fc+62.5kHz付近では搬送波(変調波)の
影響は殆ど見られず、全体のノイズレベルもRBWの帯域幅比(100kHz:3kHz)程度下がっています。
図4:近傍帯域(fc+62.5kHz~fc+1MHz)の測定画面例
(画像はクリックして拡大可能)
このように、スプリアス領域の中で最も搬送波に近い「近傍帯域」においても、 RBWを3kHzにすることで、
スペクトラムアナライザのRBW特性の影響を受けずに測定できます。
ただし、この測定値は参照帯域幅100kHzによる測定結果ではないので、
本来の参照帯域幅である100kHzの測定結果に換算する必要があります。
つまり、RBW=3kHzで測定した電力に、式①の換算値を加えたものを測定結果とします。
分解能帯域幅換算値 = 10 log(参照帯域幅 / 測定時のRBW)
10 log (100[kHz] / 3[kHz]) [dB] ≒ 15.2 [dB] ・・・式①
なお、この測定結果で規格値を満足しない場合には、不要発射の周波数を中心として
参照帯域幅の帯域内の電力総和を求めて測定結果とする方法もあります。
図1の例とは別に、搬送波周波数(fc)および近傍帯域が1GHzを超える場合、表1より参照帯域幅は1MHzですが
測定時のRBWは30kHzに規定されているケースもあります。
また帯域外領域が十分広ければ、近傍帯域の規定もなく本来の参照帯域幅のまま測定できるケースもあります。
このように無線設備によって測定条件が異なるため、詳細はそれぞれの証明規則等を確認し、正しく測定することが重要です。
※本記載内容は2020年4月1日現在のものです。