同軸ケーブルの特性について 前編
~ 特性インピーダンスはどのように決まっている? ~
無線機器の電子計測器では、信号を送る側から信号を受ける側へ信号を伝えるため、
一般的に同軸ケーブルを使用します。
このとき、どのような同軸ケーブルを使用するかを判断する重要なポイントの一つが「特性インピーダンス」です。
信号を送る側と信号を受ける側にもこの特性インピーダンスはあり、信号を送る側、信号を受ける側、
同軸ケーブルの「特性インピーダンス」は必ず一致させる必要があります。
そして同軸ケーブルの「特性インピーダンス」は、同軸ケーブルを構成する材質とその寸法により決まります。
特性インピーダンスの計算の仕方
高周波では同軸ケーブルの特性インピーダンス(Zo)は次の式で近似されます。
(画像はクリックして拡大可能)
ここで、
C:単位長さあたりの中心導体と外導体間の静電容量(キャパシタンス)[F]
L:単位長さあたりの中心導体の誘電係数(インダクタンス)[H]
CとLはケーブルの寸法により値が決まります。(図2参照)
Cは中心導体と外導体の間隔が広がれば小さくなり、狭くなれば大きくなります。
Lは中心導体の誘導成分ですが、中心導体が細くなると大きくなり、太くなると小さくなります。
同軸ケーブルを設計するとき、外導体の直径は同軸ケーブルの太さになりますので、
外導体の直径は扱いやすさや経済性、伝送する信号の最大周波数などを考慮して決まります。
それに対して中心導体の直径は外導体に収まる範囲でいろいろな大きさにできます。
それにより特性インピーダンスもいろいろな値になります。
特性インピーダンスの最適化①、減衰量を小さく
同軸ケーブルの特性で重要な項目の一つが減衰量です。
同軸ケーブルの目的は信号を離れた場所に送ることにあります。このとき信号を損失なく送ることが理想です。
つまり、減衰量が小さいほど良い同軸ケーブルと言えます。
同軸ケーブルの減衰量の変化に最も起因するものは中心導体の抵抗値による損失*1です。
同じ材質なら中心導体の直径が大きいほど抵抗値は小さくなり、減衰量(損失)も小さくなります。
しかし、中心導体の直径が大きくなると別の問題が出てきます。
中心導体の直径が大きくなると図2のようにCは大きくなり、Lは小さくなります。
その結果特性インピーダンス(Zo)は小さくなります。同軸ケーブルに加える高周波電圧が一定の場合、
特性インピーダンスが小さくなることで高周波電流が増えて抵抗値による損失が増えることになります。
図3のように、中心導体の直径を小さくすると中心導体の抵抗値増加により減衰量が増え、
中心導体の直径を大きくすると特性インピーダンス低下により減衰量が増えます。
この両方の影響が少ないところが同軸ケーブルの減衰量を最も小さくする組み合わせになります。
仮に、中心導体と外導体の間が空気の場合は、中心導体の直径と外導体の直径の比が約3.6、特性インピーダンスは約76.6Ωとなります。
特性インピーダンスの最適化②、送信電力を大きく
もうひとつ同軸ケーブルに要求される性能が大電力伝送、つまりどのくらい大きな電力を送電できるかということです。大きな電力を伝送するときに問題になるのが高い電圧による中心導体と外導体間で発生する放電です。
放電は二つの導体の距離が近いほど発生しやすくなります。それゆえ、中心導体の直径を小さくして
中心導体と外導体の距離を離せば放電は発生しにくくなります。
しかし、中心導体の直径を小さくし過ぎると、今度は、中心導体付近で電界が集中するため放電が発生しやすくなります。(図4参照)
図5のように中心導体の直径が大きすぎても小さすぎても放電しやすくなり、中間あたりに最適な値があります。
放電の場合、発生現象が複雑*2なため、最適な値を計算式で正確に示すことは困難ですが、特性インピーダンスで約30Ωになります。
このように同軸ケーブルのどのような特性を最適にするかにより、特性インピーダンスはいろいろな値になりますが、高周波の世界ではこの特性インピーダンスは「50Ω」と「75Ω」が使われています。
なぜ、この二つの値が使われているのかについては、次回ご紹介します。
*1:同軸ケーブルの損失の原因は他に誘電損失がありますが、ここでは無視しています。
*2:放電現象は非常に複雑な現象です。導体の表面の様子、導体間にある物質の状態など多くの要因に影響されるため正確に計算することは困難です。
参考文献:マグロヒル大学演習シリーズ 伝送工学
参考サイト:https://www.microwaves101.com/encyclopedias/why-fifty-ohms
※本記載内容は2019年2月1日現在のものです。
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